美味しさのかたち
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【ひやおろしの美味しさとは】

毎年、秋になると日本酒の「ひやおろし」が話題になります。
しかしながら、「ひやおろしの美味しさって」一体何?
もう、「ひやおろし」ではその概念の美味しさが伝わりづらいので、日本酒の良さが伝わらないのでは。

昨今、そんな風にささやかれています。

なかなか、「あ〜、これか。この旨さか。」とはならないとは思いますが、でもやはり、「これね。う〜ん、分かるよ。旨いね。」となる体験をされなければ「ひやおろしって何」になってしまいます。

では早速、「ひやおろしの美味しさ」見ていくことにしましょう。

するとまず初めに、「ひやおろしの美味しさとは」という大命題が立ちふさがります。
しかしながら、そのように文章を進めて行っても出てくる答えはいわゆる日本酒の旨さを伝える優等生的なコメントを書くことになるだけです。

そこで反対になぜその良さが伝わりづらくなっているのかを見てみようと思います。

ひやおろしの場合、おおよそ半年の熟成期間を経て商品化されます。
ここで一番問題になるのが熟成度合です。
各蔵の酒の酒質や特徴、保管方法、あるいはその年の出来具合によって10月の声を聞いたときに適熟の状態であるかどうかは分かりません。

次に、「バランス」と「まとまり」です。

つまり、酒の酒質、熟成度合、バランス、まとまり、これらがキーポイントですね。

ではそれらキーポイントを押さえながら見ていくことにしましょう。

酒の酒質ですが、約半年の熟成をして美味しくなる訳ですので、当然そのような酒質でなければなりません。
半年の熟成に耐えられず、惰(だ)れた状態になり、もう飲めたシロモノでは無いようなお酒ではダメなのは言うまでもありません。
こうゆう、酒質に問題アリの酒を飲めば、当然不味いと感じるだけであり、「ひやおろし」の美味しさなど望めません。

熟成をして美味しくなる酒質であることが大前提です。

次に、「熟成度合」を見てみましょう。
この酒、熟度はいいと思うんだけれど何だかまとまらないね。
こんな風に感じたことってありませんか。

「熟度はいい」とは、いわゆる新酒時の荒い味わいが消えていて、その時に感じた渋みや苦みを感じなくなっている状態を言います。
「何だかまとまらない」とは、まだ変化の途中である場合が多いです。
特に「酸味」のこなれ方。
液体の構成要素それぞれの熟成度合がまちまちなので、「まとまりが悪く」感じてしまいます。

最後に「バランス」です。
まとまりとバランスって、同じことでは。
ほとんど同じ感覚の捉え方ですが、微妙に違います

順序としては「まとまり」がよくなって「バランス」のいい美味しい酒になる。
と言えると思います。

「バランスが良い」とは、美味しいお酒の条件であり、その状態にある酒を指してこのようにコメントされます。

この酒、「バランスよくまとまっているね。」と。

つまり、お酒の構成要素それぞれの熟成度合が上手くまとまり、バランスの取れた状態のお酒として供された「ひやおろし」が美味しいという訳です。

昔から、出来の良い日本酒の表現として「甘辛酸苦渋の五味の調和」という概念があります。
これこそが土用を越して秋になった頃合いに「秋あがり」をして美味しくなった日本酒を指しています。
この状態の「ひやおろし」こそが本来の姿だと言えると思います。

そしてそこに、個性が表現されていることがベストです。
香りがよくって、旨味がグッときて、これはいいぞと言わしめるような味でなければ「ひやおろし」の良さは伝わらないなんてことはありません。
素直に飲みやすい味わいのタイプならばそのように美味しい状態になってくれれば良いわけです。

でも、何だろう、不思議とどのようなタイプの酒であれ調和の取れた「ひやおろし」の美味しさは、格別のモノがあるように思います。

これを楽しみに、秋を待ちわびる日本酒ファンが大勢おられます。
これからも、素敵な「ひやおろし」が世に提供され、多くの方に日本酒の美味しさが伝わることを願います。

尚、前稿の「秋あがりと冷やおろし」もご一緒にご覧ください。



                                      
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