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「秋あがり」と「冷やおろし」 毎年、秋になると「秋あがり」そして「冷やおろし」と呼ばれる日本酒が季節商品として販売されます。 この二つの言葉、秋の季節感や美味しいイメージとして使われているのですが、実は「日本酒の最も美味しいその良さ」を表現した言葉であり日本酒の本質を表わす言葉そのものなのです。 それではその由来は、そしてその意味するところは何なのかを見ていくことにしましょう。 それにはまず最初に、昔の日本酒のお話から始めなくてはなりません。 それは、昔の酒は原料米を今のように技術的に高精白出来なかった訳ですが、それでも美味しい酒になっていたのは何か、そこに日本酒の持つ美味しさの本質があると思われます。 昔の米は、その収穫において今のように効率一辺倒ではなかったので、一反の田圃から取れる量も今より少なかったそうです。(そりゃそうですよね、トラクターも無かった訳ですから。) するとどんなお米かと言いますと、昔の田圃は今で言うところの有機栽培に近い状態なので土の成分がとても豊かで自然であり、又、手で適度な間隔を空けながら苗を植えるので無理な穂の付け方をせず、成長した穂の米粒一粒一粒にいろんな要素が凝縮されることになり、そして軟らかくかつ美味しいお米だったそうです。 これは酒を造る蔵元さんにとってみれば、「程よく軟らかい米、けっして高精白しなくても吸水もスムーズ、醗酵時にも程よく溶けてくれる、そしてしっかりとした美味しいお酒が造れる、貯蔵も火入れをして土蔵の中がひんやりさえしていれば程よく熟成して秋には美味しくなってくれる。」となる訳です。 このように日本の風土の中で無理のないかたちで作物としてのお米が造られ、そして日本酒が育ち造られていたのです。 これが、日本酒の原風景であり美味しさの本質なのです。 白玉の 歯にしみとおる秋の夜の 酒は静かに飲むべかりける と若山牧水の詩にあるように日本酒は本来「秋に美味しい」飲み物です。 「秋あがり」とは、この昔からの概念(秋になると旨くなる)からそう呼ばれる言葉であり、もう少し補足しますと、日本酒が夏の土用を越して秋になるとその香味が円熟してきて旨みが乗ってくる事を指してこう呼ばれるようになりました。 では「冷やおろし」とは・・。 この秋になって美味しくなった酒(秋あがりした酒)を、貯蔵タンクからそのまま下ろす(卸す)(樽や瓶に移す)作業から出た言葉であり、その状態のままの酒を指して呼ぶ言葉です。 つまり、貯蔵タンクにある酒を「冷や」(そのままと言う意味)のまま商品として「卸す」(蔵元から取引先に販売する)と言う事を言っている言葉です。 尚、冷やのままと言う事は、出荷時の火入れを行なわない商品となります。 この「冷やおろし」は昔から日本酒の最も美味しい酒とされ、人々が秋になるのを待ちわびながら楽しみにしてきたとされています。 それには「秋あがり」して美味しくなった酒でなければなりません。 そりゃそうでしょう〜、貯蔵中にだれてしまい不味くなった酒であれば「冷やおろし」も何もあったもんじゃありませんからね。 シャンと上がった「秋晴れ」の味。 これこそが「秋あがり」した日本酒本来の姿であり美味しさなのです。 そしてその酒を「冷やおろし」で飲むことが日本酒の醍醐味と言う訳です。 米の質やタイプ、高精白、貯蔵設備と美味しい日本酒を醸す環境は変わりましたが、現在もそしてこれからも日本酒の持つ美味しさの本質は変わりません。 今年もぜひ美味しい「冷やおろし」をご堪能ください。 |