美味しさのかたち
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【ブッショネって何だろう】


   今ワイン業界では、コルク栓からスクリューキャップへの移行が何かと話題になっています。
その原因とされるのが、従来からワインの栓として使われているコルク栓が元で、ボトルの中のワインにひどいダメージを与えるとされる現象です。
これが「ブッショネ」と呼ばれるものです。
そんな恐ろしいことが起きているのですが、困ったことになかなか対策としての良案と言いますか、その抜本的解決のメドが経たないので、多くのワインメーカーさんではコルク栓を諦めてスクリューキャップへの移行が進んでいるようです。

この傾向を少し時代をさかのぼりながら、そして現在へと繋げて見ていきたいと思います。

ワインはボトルごとに味が違う神秘的なもの?

    その昔、ブッショネと言う言葉を全く知らなかったころ、ワインの試飲会場に行くと、たまに疑問を抱かざるを得ない香りや味に出くわしたりしました。
仕方ないので説明を求めると、「これはこのワインの特徴です。」と答えられたりします。
又、別の場合には「ワインは1本1本味が違ったりするんですよ。これってすごいことでしょ。」・・なんて言われる始末です。
同じ商品で同じ箱に入って輸入されたワインでも、それぞれ瓶ごとに微妙に味が違う。
そんな事があったら大変ですよ。
同じ樽から瓶に移したものですからね。
ひどい欺瞞です。
同じロットの商品で味が違うという現象が起きたのであれば、疑いもなくなんらかのトラブルが発生したと考えるのが普通です。
ちょっと前まで、こんな風にして、ワインを神秘化してごまかしていた時代がありました。

 今、何かと話題のブッショネですが、これはいわゆる昔からあるコルク臭と呼ばれる現象と同じ原理であり同じ現象です。

コルクが原因でワインをダメにする。
う〜ん、それならば、そんな不良なコルクは使わなければいいじゃないか。
ごもっとも。
いえ、実はこの問題、コルクが原因なのですがコルクそのものはまともな良品なのです。
なな、なんと。それは理解に苦しむ。
では、なぜそんな事が起きるのか。
それがこの問題の根が深いところなのです。

 昔から、ソムリエの居るレストランでワインをオーダーした時、ソムリエがワインを目の前で抜いてくれた後コルクを鼻に近づけます。何を確認しているのかと言えば、このコルク臭を観て異変がないかどうかを確かめているのですが、おかしな臭いがした場合の原因として以前はコルクそのものに問題があるとされていました。

それでは、その部分をもう少し掘り下げてみましょう。

「2・4・6−トリクロロアニソール」と言う化学物質。
これがこのコルク臭の正体なのだそうです。
現在この問題は、その綴りからTCA汚染と言われて世界のワイン関係者の間で議論されています。

原因は塩素系の洗浄剤でコルクを洗うことにより、その塩素系洗浄剤の残留成分と空気中のカビ等がコルクの中の微細な空間で反応を起こし、先ほどの「2・4・6−トリクロロアニソール」と言う物質に変化して引き起こされる現象です。
つまりTCA汚染とは、「2・4・6−トリクロロアニソール」がワインと接触してワインの液体の中でも増殖してワインをダメにすることをいいます。
これが、通称「ブッショネ」と呼ばれるものです。

(フランスではフランス語でブッショネと呼ばれ、日本でもこの問題に関してはTCA汚染とは呼ばれず、「ブッショネ」と呼ばれ話題になっています。)

  つまり以前は、とても微量だけれどカビに汚染されたコルクであると考えられ、そのコルクの中に居たであろうカビと塩素系洗浄剤の残留成分が化学反応を引き起こし、ワインを劣化させると考えられていたのです。
しかし、時代が進みこの現象を化学的にあるいは体験的に突き止めていく過程で、カビはコルクの中に居るかもしれないが空気中にも居るので、コルクそのものの問題ではないことが判ってきたのです。
これがこの問題の一番やっかいなところなのです。

   ちなみにいわゆるコルク臭とは、つまりTCA汚染された(ブッショネ)状態とはどんな感じかと言いますと、掃除のあと雑巾を軽くしぼって少し時間が経って生乾き状態の時に出る、あのいやな臭いと言えば伝わるかもしれませんね。
ちなみにフランスでは、「CARTON MOISI カビの生えたダンボール」の臭いと言われているそうです。

しかしこの問題、近年これ程の大問題になった背景には一体何があるのでしょう。

  聞くところによると、フランスでは1970年〜80年代にかけて多くの醸造所やカーブの建て替えがあり、その時に近代建築により空調設備を整えた密閉性の高い建築物を建てており、これにより通気性が悪く、湿気が高い状態となり、カビの温床となってしまったのではないか。
その上、梁や壁などに消毒薬を使用しているから、それがワインに吸着してくるのではないか。
そんな風にも噂されています。
やはり、昔からの知恵で「梁には殺菌・殺虫剤等を使用していない木材を使用し、壁の殺菌には石灰水を用い、自然通気がされている。」といった建物の方がワインには良かったのかもしれません。

   要するに昔は、コルクそのものに問題があってこのようなことが起きると思われていたのですが、最近になって、コルクの中にもカビは居るかも知れないが建物の中にも居るし、空気中にも居るので、どの段階で「2・4・6−トリクロロアニソール」に変化するは定かではなく、これにより良質なコルクとは何かと言う難題に多くのワイン関係者が取り組むことになった訳です。
その結果、スクリューキャップのワインが増えてきたのですね。

それならば全てのワインをスクリューキャップにすればこの問題は解決するじゃないかと思われるのですが、ところが事はそれほど簡単には行かないようなのです。

聞くところによると、コルクメーカーは何が良いコルクなのかを試行錯誤しながら研究を進め始めていますし、洗浄の方法も、塩素を使用しない方法を考え出しているそうです。
又、プラスチック製のコルクも見かけるようになりました。

コルク業者だってカビに汚染されたコルクを売るつもりは無いだろうし、まして洗浄しなければ今度は別の汚染が起きるわけだし、ワインのメーカーに至っては美味しいワインを最良の状態で消費者に届けたいわけですからね。

ワインにとって最良な栓は何か。
昔からのコルクがやはり最良なのか。
コルクではブッショネ(TCA汚染)から逃れることが出来ないのか。
スクリューキャップにした場合の新たな問題点はあるのか。

まだまだ議論は続きます。

 

                                      
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