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日本酒とワインを論じる 「日本酒と肴」「ワインと料理」の相性について論じる場合、この両者を全て同じ視点から論じることには無理があるのではないでしょうか。 それは、あるワインファンの方がいみじくもこうおっしゃいました「刺身(さしみ)と日本酒って合わないと思う。」と。 いやあ、とてもショッキングな意見に返答に窮します。 これは、何を意味するのでしょう。 と言うより、議論がかみ合わないのです。 たまたま飲んだ日本酒と刺身(さしみ)が美味しいと感じなかっただけなのか、そこのところ如何なのでしょう。 日本酒は本来、「食中酒」なのです。 それなのに、ワインファンから、そのような理解に苦しむ疑問府の付いた意見が出される。 あくまでも想像ですが、美味しい刺身(さしみ)と共に、キンキンに冷えた「吟醸酒」を、これはすごく良い酒ですからとか言われて飲んでみたところ、「どうも、なんか合わないなあ。」との印象を持たれた。 つまり、店側としては「良い酒を仕入れた、よ〜し、この酒をあの味にうるさいお客さんに出して喜んでもらおう。」としたところが、全く反対の評価をもらっていた。 その方は、その時の体験を以てして、日本酒という大分類をそのままに用いて、「日本酒と刺身(さしみ)は合わないと思う。」という感想を洩らされた。 そういう事ではないかと思います。 もしも、これが真相だとすると日本酒の造り手の苦労が全く意味のないものになってしまう出来事ですね。 良い酒とは、一体何。 一体全体何を目指してがんばって酒造りをすればいいのだろう。 でも、この事を日本酒の関係者はよくよく理解するべきなのです。 その方にとって、この感想は間違ってはいないのですから。 ワインの評価の中で、最も高い評価の例は、三つ星等のいわゆる一流レストランに採用されることだと言われています。 一流レストランは当然素晴らしい料理が売り物です。 そこで出されるワインは、その料理を引き立ててくれるものでなければなりません。 そして、料理もワインも満足してもらってこそのレストランなのです。 だから、一流なのです。 と言う事は、逆から見てみると、ワインの造り手は飲んで評価される場面と言うものを前提にしてワイン造りをしているということになります。 ワインの場合、マリアージュという概念があって、食事との相性が話題になりますね。 特に、レストランさんの場合は、自ら提供するワインがお店のお客様に評価されるかどうかが最大の関心事です。 この店は「シェフの腕が良くて、揃えているワインも良い。」 との評価をいただかなければなりません。 だから、ワインと料理の相性にはとても気を使います。 こうゆうことをそのまま日本酒に当てはめようとして、何と「日本酒と刺身(さしみ)は合わないと思う。」というショッキングなコメントもらうことになってしまった。 何かが違うようです。 その辺りを見ていくことにしましょう。 レストランさんが選ぶワインとワインバーが選ぶワイン。 これって、基準が違いますよね。 つまり、自らの店に合った商材として選ぶ訳です。 ワインバーなら、ワインそのものが主役です。 どうしても、向うを張るようなものになりますね。 レストランですと、主役は料理です。 いわゆる、料理との相性がよい、とても普通に良いと評価されるワインをチョイスすることになります。 日本酒の場合、こうゆう捉え方が出来ているのでしょうか。 ワインバーならぬ日本酒バーで評判の銘柄を何とかして手に入れようとしても、それがミスマッチになっている場合が多いということです。 例えとしてはちょっと極端かもしれませんが、古酒であっても、食中酒の概念通りの日本酒であれば「刺身(さしみ)と合います。」 よく、古酒はこってりとしたコクのある料理にとかいいますね。 あとは、チーズとかですか。 そうゆう、相性の話は、それはそれでいいのですが、 ワインの熟成した、滑らかでエレガントに花開いた味わいと同じような日本酒の古酒ならば、「刺身(さしみ)と合います」 一般的には、新鮮なものには新鮮なお酒を、つまり、「刺身(さしみ)には純米吟醸の新酒をよく冷やして」ということをいわれているようですが、少し視点が違うのですね。 但し、コテコテの古酒ですか、私、あまりよく分からないのですが、そうゆうタイプの古酒ですと、そりゃあ「刺身(さしみ)には合わない」と思います。 (このような内容を、文字で説明するのは難しいので伝っているか心配ですが。) まあ、本質論を偉そうに書くつもりはありませんが、ワインと日本酒を同じように捉えて論じても、やはり無理があります。 日本酒とワインの決定的な違いとは・・ それは、日本酒は本来「食中酒」であり、酒の肴とは、お酒を飲んで合うものなら何でも「酒の肴」なのです。 それなのに、ワインファンから「日本酒と刺身(さしみ)は合わない。」というコメントをもらうような、そんな事態を招くような、そうゆうお酒を世に出している訳です。 別にけなしている訳ではありません。 そうゆう酒は、それはそれで活かすべき場所や店、飲み方、等々をきちんと押さえて提供すればいいのです。 それが出来ていないのだと思います。 今、一部の外国人に日本の田舎の旅館が隠れたブームなのだそうです。 そこでは、浴衣を着て、畳の部屋にふとんを敷いて寝ます。 風呂も、檜風呂に入るのが人気だそうです。 大きな大浴場も無い小さな旅館。 日本の原風景、そう、それでなければならないのです。 彼らはそこに、ホテルのような対応など求めていません。 人情味のある、とても温かい気配りのある接客に驚き、そして喜び、感動します。 日本酒の本当の姿を伝えてこそ、彼らは理解し、そして感動し喜ぶのだと思います。 何も「これが本物の日本酒だ。」などと構える必要などありません。 至極普通に「食中酒」としての日本酒を美味しく飲んでもらえればいいのです。 そこが一番肝腎なのであり、こうゆう事から、何が良い日本酒なのかと言う大命題に立ち向かうことになります。 日本酒を口に含んでみた時に、「いやあ、これで美味しい刺身(さしみ)があればなあ。」と思えるようなお酒こそ、本来の姿なのです。 それは、ワインファンの日本人であれ、外国人であれ、同じだと思います。 そうして、「純米吟醸ならば、純米酒は、という捉え方」をしながら、より素晴らしいお酒を世に出していただきたいと思います。 (注)刺身(さしみ)と記しておりますが、色々な素材のものがあります。 ここでは、一般的なマグロ等の魚類を想定しております。 |