美味しさのかたち
 酒屋慶風
     さかやけいふう

美味しい燗について


ここのところ日本酒の燗についてよく質問を受けるようになりました。
そこで美味しい燗について少し見てみたいと思います。

八代亜紀の舟歌の歌詞にも「お酒はぬるめの燗がいい〜」と出てきます。
その通りに、昔から日本酒はぬるめの燗がいいとされています。

このぬるめの燗って一体どの位を指すのでしょう。

燗について通常は、人肌燗、ぬる燗、熱燗の3つに分かれます。

まず人肌燗ですが、人肌って、つまり36〜38くらいですよね。
この位につけた燗を人肌燗と言います。
店に入って、「人肌に燗つけてくれる」なんて頼んだりすると・・
なんか通らしくてカッコいいですよね。
よくドラマで居酒屋のシーンがあると、お酒を頼む時の俳優さんのセリフが「人肌でね」、なんてかっこよく注文しますものね。

ところが、この温度だとほとんど燗をつけたのかどうか分からないのです。
つまり、ぬるく温かいと感じるところまで行かないのです。
ということは実は日本酒を美味しく感じる温度帯ではないのです。
つまり、温かいと感じない位の温かさって要するにちょっとぬるっとした何だかもやっとした感じでしょ。
それでは、美味しく感じませんよ。
要するに、ぬる過ぎるのです。

お店でお客さんが「人肌で頼むよ。」と注文します。
店側は、それではと、本当にお酒の温度を36〜38℃にして出してみると・・。
「いやあ、これ、全然燗がついてないよ。しっかりやってよ。」
なんて、お小言を頂戴する始末。
こんな笑い話を聞いたりします。

他に例を取ってみましょう。
そうですね、味噌汁でも人肌の温度では美味しいとは感じませんよ。
こちらは熱くないとね。
毎日食べるお米のご飯やお茶でも同じことが言えますね。
つまり、一般的に言えば人肌の温度帯での飲み物や食べ物はあまり美味しいとは感じないのです。

ではぬる燗とは、そう、40を超えた辺りから45辺りまでを指します。
これでちょっと温かいと感じながら美味しく飲めます。
つまり、熱すぎず、ぬる過ぎない、程の良い温度なのです。

多くの飲み物や食べ物が美味しいと感じる温度帯でもあります。
それは、日本酒も例外ではありません。

又、それとは別にして日本酒にはそれぞれ美味しく飲む温度帯があると言われます。
それは、銘柄や酒質によって違うとされます。
でも、ちょっと待ってください。
そんなこといちいち分かる訳ありません。
よく言われる、大吟醸は冷やで、純米酒は燗をつけて・・。

だけどこれも一概には言えないのです。
純米や純米吟醸で冷やの方がお薦めの酒は、燗をしても美味しくなりません。
そうかと思えば、大吟醸でも燗をして美味しくなる製品があります。

しかしながら大前提として言いますと、燗をして美味しくなる酒はやはり40〜45が一番美味しいのです。
それは、大吟醸であろうと純米酒であろうと同じ事です。

燗をつけない方が美味しい酒は、要するに何度に燗をしても不味いのです。

それを越えてお酒ごとにより細かく温度帯を見ながら試していくのは、それはもう酒通の楽しみでもあるのだと思います。

ですので、実際に人肌の温度で一番おいしく感じるお酒もあるでしょうし、その酒の熟度や季節によっても変わります。
これはその酒の中味と言いますか、質と言いますか、造りと言いますか、う〜ん、そこなんです。(上手く伝えることが出来なくてごめんなさい。)


ではここで、どうして「人肌の燗が一番良い」とされるような話が広まったのでしょう。
その辺りを見ていくことにします。

人肌というのはぬくもりを感じるという意味でもあります。
だから今のように、実際のお酒の温度が人の体温の辺りを指しているかどうかは判らないのです。
昔の人がしみじみと味わいながら飲む酒が人肌と表現されていたのかもしれません。

自分が最もリラックスして美味しく味わえるお酒が、人のぬくもりを感じる温度であり、それが「人肌燗」であると。

だから一番美味しいのだと・・。

おそらくそのようなロマンチックな背景もあって伝えられた言葉であり、それがいつの間にか「一番美味しい燗酒の通称」になったのではないかと思われます。

それからもう一つ見て置かなければならないのが、昔よく見かけた厚手の徳利を前提とした話です。
その厚手の徳利を湯煎しながら、外側から人が触って感じる温度が人肌だとしても、中の酒の温度はおそらく40〜45くらいでしょう。
こうゆう徳利を人が手や指を当ててみて温かいと感じる温度が40くらいだとすると、中は45〜50くらいではないでしょうか。
すると熱くつき過ぎる訳です。
だから人肌でね。という注文の仕方になる訳です。
中味の温度ではなく、燗をつける作業をする方の徳利に手を当てた時の体感温度だったのです。
そんなところからもこの伝説は生まれたのではないかと想像します。

しかしながら、「人肌燗」という何とも言い難い響きのよい言葉を日本人は大切にしているのでしょう。
実際のお酒の中味の温度が人肌くらいの温度であるかどうかよりも・・。

そのような見方からして、美味しい燗をつけるとは40〜45のぬる燗を指すと言えるのではないでしょうか。
まさに舟歌の「お酒はぬるめの燗がいい〜」となる訳です。

そして熱燗ですが、これは50くらいを指しますが、ここまで来ると今度は大吟醸や純米吟醸等は香りが飛び、成分も変化してしまいます。
しっかしとした酒質の純米酒か本醸造がお勧めです。

最後にひとこと
いい訳になるかもしれませんが、お酒は嗜好品ゆえに飲み手の好みが様々です。
ぬる燗をベストとして文章を書いておりますが異論のある方もいらっしゃると思います。
ただ、それを言いだすと堂々巡りとなり結局飲む人の好みでいいじゃないかとなってしまいます。
いつまでも逡巡していては何がベストなのかを伝えることができないと考えました。
そこのところ、ご理解を頂ければ幸いです。

〔あとがき〕
日本酒の美味しい燗については理屈ではなく、今度はやはり燗の付け方のそれこそ勘どころをお伝えしなければなりません。それで、本当に旨い酒を旨く飲むことになりますからね。


2010.01


                                      
酒屋慶風トップ  

酒屋慶風ネットショップ」にて、商品のご案内を行っています。

Copyright (C) 2010 happy-breeze.com. All Rights Reserved.