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酒屋慶風/対談集 【ワイン編】 フランスのワイン文化、そのありのままの姿を伝えようとされておられるフランスワイン専門輸入商社「ヴィーヴァン倶楽部」社長、加勢利彦氏とお話をさせていただきました。 (y)最近のフランスワインについて何か傾向のようなものはありますか。 そうですね、とても自然になってきています。 以前ですと、世界に向けて売っていく中で、ロバートパーカーとかの評価を気にするところがあって、樽香を付け過ぎていたり、アタックと呼ばれる最初のインパクトに主眼を置いた酒造りを行ったりとしていたのですが、ここにきて、もっと普通に自然な感じのものが多くなってきたように思います。 (y)それは、自然派ワインと呼ばれているものとは違うのですか。 いいえ、自然派と言われているワインではなく、一般的な傾向として、ナチュラルな造りに戻りつつあります。 要するに、自然な果実味を大事にしたモノですね。 (y)やわらかく、おとなしい印象ですか。 おとなしいという意味ではありません。 口当たりはスムーズでも、バックにはきちんとした造りを感じさせるものです。 今までのように誇張された味のものではないということで、無意味な刺激に慣れている人には、それが分からないかもしれませんが・・。 (y)それはとても良い傾向だと思うのですが、如何ですか。 はい、そう思います。 当社は、初めからそういった自然で果実味を大事にしたワインを扱ってきていますから、時代が合ってきたと思っています。 ただ、日本の消費者で、極端な刺激の強いものを好む人たちは、産地の流れとは逆行する方向へ行ったままで、戻ってきていないということです。 先端を行っているつもりかもしれませんが、実は遅れているということです。 (y)話は変わりますが、日本ではここのところ日本酒が低迷して久しいのですが、この辺りはフランスワイン専門の輸入会社さんから見てどのように映っておられますか。 フランスですと、トップクラスのシャトーが安物のパック酒とかを販売することは考えられません。 トップの誇りが許さないし、又、一般のフランス人もそれを良しとは思わないでしょう。 フランスでは文化としてのワインを大事にしているけれど、日本では伝統としての日本酒の良さを守ろうとする意識が薄いように思われます。 (y)少々、残念な話ですね。 フランスのボルドーですと、クリュ・ブルジョワという格付けがなされたワインがあるのですが、このクリュ・ブルジョワが日本では2,000円を切って紹介されるようなことがあります。 こんなすごいワインがすごくお値打ちになっていますよと。 でも、そんな良質なクリュ・ブルジョワが2,000円を切って売られる筈がありません。 つまり、産地ではそのクラスに見合わないワインを日本に持ってきているだけのことです。 要するに、クリュ・ブルジョワではあるけれど、その中味が市場で評価されないものを掘り出し物と勘違いしているわけです。 クリュ・ブルジョワなのに安く売られているような場合、それはクリュ・ブルジョワなのにダメね、と烙印を押されているようなものです。 (y)肩書だけはあるけれど、う〜ん、という商品だと判断される訳ですね。 こういうワインが、日本に輸入されると、それはものすごい形容詞を付けて売られているようです。 美辞麗句を並べて、そしてこの価格、すごいでしょ。と。 (y)つまり、自ら価値を下げるような真似を彼らはしないということですね。 その通りです。 如何に、良質で美味しいワインを造るか。 そして、クリュ・ブルジョワにふさわしい中味であるか。 それだから、きちんと評価されて高く売れるのです。 そうでなければ努力する意味がありません。 (y)つまり、正当な価値のものを評価する市場があるということですね。 残念ながら、日本の市場はそれが希薄であると。 ただ、気が付いておられる方も多くなってきたように感じています。 本来は、このフランスでの有り様が、日本では日本酒で起きていれば良いわけですが、そのようにはなっていなかったと言えるのではないでしょうか。 (y)日本酒の地方の蔵元さんが立ち行かなくなっている話はここ数年続いているわけですが、ボルドーではどうなのでしょう。 ボルドーでは、先程も申し上げたように、彼らの努力の狙いは良質なものを造り、それにふさわしい価格で売られることです。 いいものを造れば安売りをしなくてもよい仕組みを構築しているから、あれだけ多くのシャトーが価格競争をせずに成り立っているのでしょう。 (y)今、日本のワイン市場はかなりリーズナブルな安価なワインがシェアを占めているように見えますが、その辺りは如何ですか。 フランスワインは価格のみでは対抗できませんから、本当のコストパフォーマンスをアピールする必要があるでしょう。 衣料品でも、ユニクロ等がすごい勢いですが、あっと気が付いたら、本当に気に入った洋服を売っている店が無くなっていたなんてことになりかねません。 フランスワインも同じことが言えるでしょう。 そうなって欲しくないと願うほかありません。 (y)すると、何か手を打たれているとか。 良いものを見る眼を持つ消費者を育てるようにしています。それと、賢い楽しみ方を伝えるようにしています。 ワインには価格に見合った美味しさがあり、飲み手がメリハリをつけた楽しみ方を知るようになれば、それぞれのワインの価値の意味を理解するようになるのではないかと思います。 フランスなどでは、安くても美味しくないワインを毎日飲むような習慣は見直され、飲む量は抑えても、できるだけ美味しいワインを飲む傾向に変わってきています。 今さら、フランスの人たちがもう止めようとしている旧来のワインの飲み方を真似るのではなく、彼らが新たに到達した上手なワインの飲み方を学ぶのが賢い楽しみ方です。 それを伝えるためにも、思いきって本を出しました。 (y)2010年4月初旬、桜が咲き始めた頃にお話を伺いました。 ありがとうございました。 |