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【酸のあるタイプの酒について】 「酸のある酒がいい。」 まだまだ少数派ではいらっしゃいますが、最近、こう言うお客さんがお見えになります。 この酸があるタイプ、少し前までは全く敬遠されていました。 今回は、この酸があるタイプの日本酒について見て行きたいと思います。 よく商品の裏ラベルに日本酒度の次に表示してある「酸度」の事ですね。 酸度が1点幾つなので、この酒、結構「酸」があるね・・なんて話したりしますでしょ。 (ちなみに「酸」についての専門的説明は割愛させて頂きますのでご容赦下さい。) 一般的には、酸度が高いと味のじゃまをして飲みにくいとされており、程々の酸度を保つことが美味しい酒の条件のように言われていた時期がありました。 酸味を感じてしまうと、日本酒の繊細な美味しさが隠れてしまうと言う訳です。 もちろん、この見方は今でもほとんどの日本酒に当てはまります。 (まだ過去形になっていないかもしれません。) では一体、酸のあるお酒がいいとは如何なるお酒なのでしょう。 まずこの酸、この酸が全く無ければ(とても少なければ)どうなるかと言いますと、お酒がぼやけて輪郭のない味になり、腰の無い、「ふにょふにょ」になってしまいます。 だから、適度な酸は必要なのですね。 つまり必要なんだけれど、多すぎては今度は「ごわごわ」となり味わいを悪くすると考えられています。 ここまでは、一般的に言われている事です。 ではでは最近言われ始めた「酸」のあるタイプはと言いますと、この定義にちょっぴり当てはまらないお酒なんですね。 簡単に言えば、酸が高くても美味しいお酒・・なんですね。 (う〜ん、じらさないで早く説明してよ・・と言う声が聞こえてきそうです。) 同じ酸でも良質なものとそうでないものがある。 このように結論付けていいかどうかよく分かりませんが、私的にはそのように理解しています。 そしてこの良質な酸こそが「酸度」が高くても美味しい酒の秘密なのではないかと考えています。 この良質な酸はどのようにして生まれ、また日本酒の味にどのように関わっているのでしょう。 これにはまず、醗酵が健全であることが絶対条件です。 一般的に言う「キレ」が悪い酒は、少しの酸でも「酸味」を感じたり、そして「雑味」があるように感じられ全体的にバランスが悪いものとなっています。 この時に、酸度が普通より高ければ、これはもう不味い酒と言わざるを得ない酒になっています。 醗酵が健全であれば、酵母がとても上手い具合に働いてくれた訳で、その結果としてのアルコール醗酵なのですから、キレの良い、美味しい酒になり、そこでの構成要素である「酸」も良質なものであり、出来た酒の味わいを良い形で支えてくれる訳ですね。 この「良い形で支える」とは、その酒を腰のあるしっかりとした酒質を形つくり、少々の事ではへこたれたり、だれたりしない酒質に寄与することを言います。 もっと言えば、奥行き、味幅、にも影響を与えています。 そして良質な酸であれば、酸味を感じながら決してその味を不快とは感じずにむしろ好ましいとさえ感じる酸味なのです。 後味に酸味がまとわりつくこともなく、きれいに消えて行きます。 それから、食事との相性もとても幅広くオールマイティに楽しめます。 こうした酸のある酒が少しづつ認知され始めてきたと同時に、一方ではお酒を数字で飲まないで欲しいという造り手からの声も上がり始めています。 日本酒度がプラスの幾つ、酸度が幾つ、これだけを見て判断しないで欲しいと言う声です。 それはあくまでも出来上がった酒の結果でしかないのですから。 目安にはなっても、お酒を定義付けるのは行き過ぎだという事ですね。 裏ラベルに「酸度2点幾つ」なんて書かれていたら、もうそれだけで買っていただけない事態が起きるのですが、本当に深みのある味わいの結果だとしたら、これはもったいない事だと思います。 (特にこういったタイプの酒は酸味を数字ほど感じません。後で聞いてビックリしたりする場合がほとんどです。) それからタイプが違うのに数字だけで判断されても、これもまた困ってしまいます。 大吟醸に特別純米酒、あるいは早く飲むタイプの酒と熟成に向く酒、こういった全く異なるタイプの酒を比べるのに数字はあくまでも目安にしか過ぎません。 タイプ、キャラクター、は違ってもそのお酒が良質で美味しいか如何かが問題なのです。 この酸のあるタイプの美味しい酒は、新酒時には溌溂としたイキの良さを感じ、その後適度な熟成を経て飲み頃を迎え、その練れた奥行きのある日本酒本来の醍醐味に触れる事となり、中にはより熟成を重ねることで立派な紳士へと成長変貌を遂げるものもあります。 もうこの段階になれば、酸味を感じるとかと言うことなど忘れています。 うっとりとしたその酔い心地に杯を重ねていることでしょう。 美味しく味わえる酸のある酒。 まだまだこれからのジャンルのお酒ですが、ゆっくり確実にそのファンを増やして行く事でしょう。 期待したいと思います。 〔*〕もちろん、酸味が気に障る味の日本酒で「酸のあるタイプの酒」ですなんて出されてもダメなのは言うまでもあり ません。 論外です。念の為。 2005.06. |