美味しさのかたち
 酒屋慶風
     さかやけいふう

「私が思う日本酒の分け方」



今日本酒で一番いい酒って何?
どれが一番美味しいの?

まあ、きわめて当たり前の質問です。

しかしながら、すべての日本酒を一括りにして比べながら、その答えを出すことは出来ません。
それはやはりタイプの違いから、その酒の美味しさがそれぞれ違うからです。

そこで、私の思う日本酒の分け方があります。

まず、純米酒と醸造用アルコールを添加したお酒という括り方が1つ。
それから、一般米を使った並級のものと上級の酒造好適米を使用したもの。
という括り方が1つ。
そして、伝統的な造り方のタイプ。
あるいは、華やかで冷やで飲むタイプという造りからくる分け方。
ここが一番細かく分かれることになります。
という3つから説明するというものです。

別の言い方をしますと、
まず最初に、醸造用アルコールが入っているものと純米酒を分けます。
その次にランク分けを行います。
ランク分けとは、日本流に言うところの「松・竹・梅」ですね。
まあ、平たく言えば「上・中・下」。
ただ、この「上・中・下」という概念はあまり使いたくありません。
ここのニュアンスがちょっと難しいところです。

そこで参考になるのが、フランスワインで言うところのテーブルワインとA.O.Cです。

現在日本酒は、特定名称酒と普通酒という分け方がされていますが、一見ランク分けのように思えるのですが、よく考えてみるとちょっと様相が違います。

私的に言いますと、純米酒において一般米を使ったものは普通の規格、つまりテーブルワインに相当します。
酒造好適米を使ったものは、認定されたクラスのもの。
つまり、A.O.C.に相当します。
醸造用アルコールを使用したお酒ならば、この原料米とともに今までの本醸造や普通酒の捉え方を当てはめても良いでしょう。

如何でしょう、この方が理解されるのではないでしょうか。

そして、この2つを踏まえた上でカテゴリー分けを行います。

これらをクルマに例えるとすると
ランク分けは、軽自動車、中級車(普及帯)、そして高級車。
そして、カテゴリー分けは、
セダン、クーペ、ワゴン、ワンボックス。
いうイメージです。

これを日本酒で行うと
伝統的なスタイルの日本酒。
これはつまりセダンでしょうか。

何が美味しい酒なの?という質問に対して、その人の好みが最初に問われます。
昔からの4ドアセダンを落ち着いていて良いなあと思う人もいれば、もっと楽しく遊びにも使えるワンボックスタイプが良いと思う人もいるでしょう。

日本酒も燗を付けてじっくりと飲みたいという人。
冷やで華やかな香りとともにある美味しい酒が良いという人。

でも、どちらもそれぞれに価値があります。
タイプとしてカテゴリーを分けているだけです。
どちらが美味しい酒。
どちらが良いクルマ。
ではないのです。

その違いが理解されていていることが大切です。
そして、ここに造り方からくるお酒の特徴の違いが加わります。
生もと仕込み、山廃仕込み、そして速醸仕込み等々。
あるいは、最近の醸造技術を駆使した造り方。
そこに今までの概念の「本醸造」とか「純米酒」「純米吟醸」そして「大吟醸」という捉え方を当てはめることが出来るでしょう。
ここにもう一つお話ししなければならないことがあります。
精米歩合に付いてです。
それは50%精米で「特別純米酒」と表示してある商品があります。
大吟醸と表示するはずなのに、どうして50%精米なのに「特別純米酒」表示なの?
でも、私は何の問題もないと思うのです。
ここなんですね、お伝えしたいのは。
要するに、どういうタイプの酒として商品化しているか。
ここを消費者さんに伝えるべきであって、精米歩合だけですべて大吟醸とする必要はないと考えます。

また、クルマに例えるのですが
エンジンの排気量がそれ程でもないスポーツカー。
怪物マシーンのようなものだけが、あるいはスーパーカーと呼ばれるものだけがスポーツカーではありません。
手の届く価格帯での、まあいわゆる中級クラスのスポーツカーだってあります。
でも、なめてはいけません。
抑えどころは、もちろんスポーツカーならではの醍醐味が走りにあります。
その反対に、エンジンはスポーツカーとして使用されるすごいエンジンを搭載しているけれど、ちょっとスタイリッシュな4ドアセダンとして売り出したクルマ。

タイプとして選び、予算で選び、ライフスタイルで選び、趣味で選ぶ。
いわゆる中級のスポーツカーもあれば、スポーティな雰囲気の4ドアセダンもある。

日本酒でも、50%磨いていても、タイプはあくまでも「特別純米酒」というカテゴリーの酒として造っている。
としたならば、これは「大吟醸」と呼ばない方が伝わります。

このカテゴリーと言いますか、タイプと言いますか、4ドアセダンとか、ワンボックスカーとか。
そういう伝わる言葉が必要だと思います。
日本酒は、これらの分類として色々な表現がされていますが、でもやはり商品としてどういう酒なのかが伝わるかどうかと言いますと少し違うのではないでしょうか。
お値打ちな大吟醸もあれば、高い特別純米酒もある。
これを伝えることが出来るのは、分類が出来ていればこそ。
そう、それでこそ消費者さんの混乱はなくなるのではないでしょうか。

ここでもう一度、今度は洋服に例を取ってみます。

英国紳士が好むツイードジャケット。
こういうスタイルや価値観がとっても好きで着ている人。
伝統的な価値観とスタイルです。

方や
そういう価値やスタイルが、う〜む、ちょっと古めかしいと思っている人。
双方とも、求めているものが違います。
でも、好みは違ってもその良さは伝わります。

日本酒において、その酒がどのような酒であるかかが消費者の方にきちんと伝わって、その上で好みや価値を認識していただく。

その為に、分かりやすい分類が必要なのではないでしょうか。

もちろん、そういう分類をしても全て型通りに当てはまるとは限りません。
オーバーラップしているといいますか、色々な要素を併せ持った商品もあるでしょう。

でも、その原型のような分類上でのポジションは有った方がいいと思います。

4ドアセダンに分類されると思うクルマなんだけれど、スタイルの良いワゴン風のクルマ。
最近多いですよね。
日本酒もそんな感じがします。
本当に様々な日本酒が市場に出ています。
そうであればあるほど、その原型としてのカテゴリーが分かっていた方が良いと思うのです。

そして、こういうランク分けとカテゴリーと言いますかタイプと言いますか、そういう分け方をしておいた上で、私は秋の「ひやおろし」の定義につなげたいと思います。

昔からの英国スタイルを基調にしたスーツ。
そして、最近のスタイルでデザインされたスーツ。
日本酒の「ひやおろし」は、伝統的な造りのお酒だからこそ、その味わいが楽しめます。
生地も作りも伝統的価値が表現されています。
最近の新しく開発された生地とそのデザインに合った作り方。
そういうイメージ。
そんな伝え方。

どちらが良い。
ではないのです。

そんな感じで「ひやおろし」がどのような酒なのかが、どのような価値と味わいのお酒なのかがきちんと伝わった方が良いと思うのです。

伝統的な造りのお酒だから、秋になって熟成が進んで美味しくなる。
その美味しくなったお酒を「ひやおろし」という生詰めの状態で商品化する。
だから、秋に限定でしか売ることが出来ない。

香りを楽しむタイプのお酒は、あまり熟成の概念を持ち合わせていない。
年間を通じて低温貯蔵しながら一定の美味しさを味わってもらいたい。
なので、「ひやおろし」という商品にして売り出す必要がない。

伝統的な造りの、普通クラスの一般米を使用した純米酒、あるいは本醸造の「ひやおろし」もあれば、ランクが上の酒造好適米を使用した「ひやおろし」もある。

如何でしょう。
私が思う日本酒の分け方は。
日本酒が消費者の方にとって分かりやすい分類になったでしょうか。

私は、こうすることで日本酒全体の構図が分かるようになり、選ぶ方も分かりやすく選ぶことが出来るようになるのではないかと思います。


2014.09


                                      
酒屋慶風トップ  

丸又商店オンラインショップ」にて、商品のご案内を行っています。

Copyright (C) 2010 happy-breeze.com. All Rights Reserved.