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【生もと仕込みとは】 2005年3月、毎年「ダンチュウ」と言う雑誌において3月号は日本酒特集が掲載されるので早速購入してみました。その特集の記事の中に「生もとを見直す」というページがありました。 とても興味深い内容についつい読み入ってしまいました。 そこでこの「生もと仕込み」について少し書いてみます。 その昔、明治初期までは日本酒はすべて「生もと仕込み」で造られていました。 時代が進み、酒造りの研究も進むと理論的に作業の簡素化が行われたようです。 そこから「山卸し」を廃止したり、「速醸もと」が生まれたりしたそうです。 *山卸し もと摺り作業のことを言います。 *速醸もと 乳酸を添加して酒母を造ります。 「もと」とは酒母のことです。(「もと」と言う漢字は、酉に元と書くのですが、機械上その字が 表わせないのでひらがなで書いています。) 「もと」の事を酒の母とはよく言ったもので、ここで優良な酵母を大量に培養します。 その後、三段仕込みと呼ばれる日本酒独特の仕込みを行ないます。 この酵母が活発に働いてくれることにより、美味しいお酒が生まれるという訳です。 平たく言えば、優良な酵母を生み出すことが酒造りの要諦であり、それにはやはり昔ながらの「生もと」が最適であるとの原点回帰が起きているようです。 そんな事が分っているのなら、みんな「生もと仕込み」をすればいいじゃないかと思われますが、事はそれほど単純かつ簡単ではなく、この「生もと」の難しさは相当なものらしいです。 ここで「生もと」に関してその化学的メカニズム、つまり専門的なことを分りやすく書こうとする事は、どうしても上手く理解されずに反対によく誤解される内容になる場合が多いのでご容赦願いたいと思います。 もちろん私自身の理解不足も大いに手伝っての話ですが。 だって、乳酸菌醗酵、乳酸、硝酸還元菌、亜硝酸、こんな言葉を使った文章なんて読みたく無いですよね。 要は自然に乳酸が生成され、それがナイト役(雑菌退治)をしてくれるお陰で酵母が培養されるのです。 この「自然に乳酸が生成」される「生もと」と「乳酸を添加」する「速醸もと」では、どうしても酵母の育ち方つまり培養の中味が違うと言うことです。 ここが一番のポイントです。 優良で健全な酵母が大量に培養されれば、もろみの醗酵の度合いによる管理もやり易くなり、つまりアルコール醗酵が上手く進み、最後まで完全発酵あるいは健全醗酵してくれるのでコク、旨味があるのにくどくならず、切れ、さばき、の良い後味も爽やかなお酒になる訳です。 では良い事尽くめの「生もと」ですが、しかしその難しさは何処にあるのでしょう。 造り手の一番の悩み・・、それは自然の中での微生物のいとなみなので、上手く亜硝酸と乳酸が生成されるかどうかなのです。 これがクリアーされなければ、物事は始まらないと言う訳です。 つまり、乳酸がナイト役を果してくれなければ色々な菌の影響により優良な酵母を育てられないのですね。 するとここで、そう言えば「酵母」はいつ発生するの?と言う疑問が出てきますね。 実は、現在の「生もと」では酵母は添加しているそうです。 だから、野生酵母や雑菌の少ない酒母室を別に作りそこで「生もと」を造っています。 昔は天然酵母、俗に言う「蔵付き酵母」が自然に着いたものが培養されます。 するとどうなるかと言えば、どんな酵母なのか最初は分からないのでその見極めに時間が掛かり造り手としてはやきもきした状態が続くことになります。 また稀に悪性の菌が一緒に付着することもあるので、お酒を腐造する心配も付いて回ります。 現在では、酵母を添加するのでお酒の素性は始めから分かっているのでやり易いわけですね。 私は造り手ではありませんので、その苦労の中味を体験的に知る立場にはありませんが、直接聞いた話の内容では、この「生もと仕込み」が上手く行った時の喜びはひとしおのご様子で、これぞ酒屋モン冥利に尽きる感激を味わうそうです。 もとの甘酸っぱい香り、これがちっとも嫌な酸っぱさの香りではなく、とても気持ちの良いものだそうです。 そして、醗酵時における「もろみ」との対話もとても自然な気分になるそうです。 別に話が出来る訳でもないのに感じるんだそうです。 酒造りの原点回帰、その流れはこれからますます加速されそうです。 目が離せませんよ、皆さん。 2005.04 |