美味しさのかたち
 酒屋慶風
     さかやけいふう
 フランスワイン専門輸入商社・加勢利彦氏のワインコラム
   美味しさには「かたち」がある


 本格的にワインに興味を覚えたのはフランスに住んでいたときである。それも、最初からではなく、パリにいた頃は単純に美味しいワインが飲めればよいぐらいにしか思っておらず、ワインの美味しさについて深く考えたりはしなかった。

 ところが仕事の関係でワインの名産地として知られるボルドーに移り住むことになったとき、せっかくの機会なので、ひとつ「ワインの味」を極めてやろうと思い立った。

 さて、どうしようか。 このときふと頭に浮かんだのは、どこかで読んだ骨董師の話である。 骨董師を育てるには、 最初は本物しか見せないという。 そうして、 ある時期から贋物を混ぜて見せる。 そうすると、 不思議なことに、 自然に贋物に対して違和感を覚えるようになり、 真贋を見分ける目が養われるという。 話の真偽のほどは知らないが、 これでいくことにした。

 お金はかかったが、美味しいと評判のワインを片っ端から飲み始めた。ワインの解説書もいろいろと買い込んで、 飲んでは読み、 読んでは飲むことをくり返していった。 しばらくすると、 美味しいワインに共通する 「かたち」 が見えてきた。 骨董師の話はまんざら嘘ではなかったのかもしれない。 こうして、 自分なりに 「これがワインの味かな」 というものがわかってきた。 ここで会得したことが間違いでなかったことは、後にボルドー大学のワインセミナーを受講したときに確かめることができた。

 このように「ワインの美味しさのかたち」を体で感じとった頃にワインの専門書で次のような図に出会った。これは、ヴェデルという人が、赤ワインの味のバランスについて説明するために考え出したものである。

 渋みの元はタンニンだが、それを含む葡萄の皮を除去して造られる白ワインでは渋味が少なく、基本的には甘味と酸味が全体の味を構成している。しかるに、赤ワインの場合、果皮と一緒に醗酵が行われるので、図のように甘味と酸味と渋味が味の構成要素となる。

 美味しいワインであるための最も重要なポイントの一つは、これらの三つの味がうまく調和していることである。

  即ち、バランスの良さが決め手になる。

 具体的には、三つの味がバランスよくまとまっていれば、ワインを口に含んだときに、引っ掛からずに、スムーズに口の中に入っていく心地よさが得られる。これが美味しさの大事な条件で、上の図でいえば、中心の正三角形が「美味しさのかたち」ということになる。
ただ感覚的には、味のバランスのイメージを丸いものとして捉えた方が実感に近く、それを次の図で表現してみた。
こちらの方がわかりやすいと思うが、いかがであろう。


このように、三つの基本の味がそれぞれの特徴を維持しつつも、全体がうまく調和していれば、一部の味が突出することがなく、文字通り口当たりがまろやかになり、それが美味しさに通じることになる。  

   美味しいワインが皆この「かたち」を持っていることは、ボルドーで幾多のワインを試すことで、私自身も実感したところである。
上述した骨董師の話でいえば、最初は「いいワイン」だけを飲み、「美味しさのかたち」を体で覚えるのが、ワインの味を知る最も効 果的な方法ということになる。  
よく、数をこなせば、ワインの味がわかるようになるといわれるが、必ずしもそうはならないようである。
いいワインとダメなワインをごちゃ混ぜに飲みながら、「美味しいワインのかたち」を見極めるところまで辿り着けるのはほんの一握りの人だけ。
大抵は脱線 してしまうのだが、感覚的なことだけに、本人はそれに気づかない。
骨董を学ぶのに、最初は贋物を見せないというのは、このようにならないようにするためなのだろう。  
 
  美味しいかたちを持たないワインでも、本人がそれを好きならばいいではないか、と言う人がいる。その通りである。嗜好品なのだから、美味しくないものを好きになる自由はある。
ただ、「お気の毒に」とだけ言わせていただこう。



     フランスワイン専門輸入商社社長、加勢利彦氏のホームページより抜粋。
                                        (もちろん、許可を得ています。)

                                      
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