美味しさのかたち
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食中酒ってどんな酒(その2)



昨今日本酒において「食中酒」という言葉がとてもよく使われるようになっています。
しかし、何だか言葉のイメージだけが使われているようにも思います。
その辺りを少し見てみましょう。

食前酒、食中酒、食後酒。

とまあ、通常はこの3つに分けられる訳ですが、しかしこの分け方は元々日本のものではないと思います。
つまり、ワインとかブランデーとかの飲み方に於いて使われる言葉です。

ですから、日本酒において「食中酒」という言葉を使って色々と案内されるのですが、微妙なニュアンスの違いといいますか、伝わっていない部分もあるような気がします。

ここを整理しておかないといけないのではないでしょうか。

食事をしながらワインを飲む。
つまり、ワインは食中酒です。

ブランデーを飲みながらの食事はないですね。
これは、食後酒です。

しかし、この分け方で、そのまま日本酒をワインに置き換えることは出来ません。
ここが今一つスッキリしないまま「食中酒」という言葉が使われています。

一番の懸念は、お酒は食事をしながら飲みません。
晩酌と夕飯は別です。

ですから、同じ「食中酒」という言葉で伝えようとしても本来の意味が違います。

ちょっと以前、ワインについてよく言われていたことがあります。
それは、「向こうではワインは水代わりに飲まれているよ。」というものです。
この意味することが伝わらないままに、最近ではあまり聞かなくなりました。

でも、この通りだと思います。

ちょっと例えるとすると、
ファミリーレストランでランチをする場合。
まあ、洋食ランチ、う〜む、スパゲッティとしましょう。
これに水を飲みますね。

でも、スパゲッティに掛かっているソースとの相性を考えれば、軽い赤ワインが欲しいところです。

このシチュエーション。
とても当たり前じゃないでしょうか。
でも日本で、お昼にファミリーレストランでランチを食べながらアルコールを飲むと言う行為はやはり廻りの目が気になって中々出来ません。
つまり、日本では昼間からアルコールを飲むという行為は世の中に受け入れられていません。
でも、普通の欲求なのだと思います。

だから、外国のそういう行為を目の当たりにした日本人が、「向こうじゃあ、ワインは水と同じように、そう、水代わりに飲んでいるよ。
まあ、日本ほど水道水とかきれいじゃないから、そうなったのだと思うよ。」
という感じで言ったりしたのでしょう。

でも、本当のところはどうなのでしょう。
普通のことのように思います。
その時に飲む赤ワインは、そうですねえ。
香り。
まあ、それほど無くても気にすることないでしょう。
軽いタイプ。
でも、いわゆるシャビシャビという感じではなく、ちゃんと果実味があって、軽くスムーズに飲める美味しいワイン。

つまり「水代わり」という伝え方が、少しだけ違うということです。
普通なのです、お昼の食事にワインは。
向こうでは、たぶん。

これがつまり、ワインは「食中酒」であると言えることになります。

日本ではワインは「うんちく」を傾けながら飲む飲み物になっているから、こういう「向こうでは普通のこと?」が根を下ろさなかったのかもしれません。
お昼に洋食ランチを食べながら、軽くひとくち飲む。
こういうシチュエーションこそがワインの普通の姿なのだと思えます。

もちろん、こういう時に出る安価なワインではあっても不味いワインなら飲みたくは無いですよね。
ここにはここのレベルでの美味しさってものがあると思います。
この感覚が日本では無いのかもしれません。
ワインが普通に飲まれていない原因かなとも思います。

つまり、こういうシチュエーションが有って、その上で、レベルの高いワインといいますか、日常に飲むものから高価なモノまで有るのがワインじゃないでしょうか。


ならば、日本酒でいう「食中酒」とは・・・。


お昼の洋食ランチに合わせてワインを飲む。
ならば、
和食ランチに合わせて日本酒を飲む?
これは無いでしょ。

なので、食前酒、食中酒、食後酒という分け方から、「ワインは食中酒に分類される」とすると、この捉え方でワインを日本酒に置き換えることに無理があると思います。

日本酒と肴。
ごはんとおかず。
つまり、日本酒そのものが主食のごはんに当たります。

で、この肴(さかな)とは何?となります。
前にコラム「食中酒ってどんな酒」に書いたので省略しますが、日本酒は冬には「雪見酒」なんて風流なことを言います。
つまり、雪が降れば、それを肴にお酒を飲むのです。

雪景色を愛でる。
この行為が「肴(さかな)」になると言うのです。

つまり、日本酒では「食中酒」という言葉を使って案内されていても、普通に食べる食事に合わせて飲むということではないようです。

なので、言葉のイメージで商品を案内していることになります。


あるところでこんな質問をしてみました。

もしも何も食べ物がない状態でお酒を飲むとした場合。
ワインだけを飲む。
日本酒だけを飲む。
とするとどちらを飲みたいですか?

この回答では、多くの方はワインとお答えになられます。

どうしてかと言いますと、「日本酒はどうしても充てが欲しくなる」と言われます。
つまり、ごはんだけを食べては味気ないということです。

ワインはと言いますと、これは果実から造られたアルコール飲料です。
つまり、アルコール分がなければジュースなのです。
だから、どちらならそのまま飲みますかと聞くと、ワインと答えるのではないでしょうか。


これでお分かり頂けたのではないでしょうか。
この日本酒のもつ特性を紹介する言葉として「食中酒」と言っているのだと思います。

つまり、同じ「食中酒」という言葉が使われていても、日本酒に於いての「食中酒」は、3つの分類からではなく、昔からの日本酒本来の有り様を伝えたいが為にそのイメージを借りている。

こうして見てきますと、食中酒という言葉に定義があるとすれば、ここに書きましたように日本酒を案内する時に使うのは少し無理があります。

しかし、云わんとすることはとてもよく分かっていただけたのではないでしょうか。

つまり、先程のアンケートの結果に見るように、昔からの日本酒の価値は様々な食と合わせることができるのです。
日本酒こそ食に合わせて楽しむ飲み物なのです。
だって、ごはんなのですから。

ただ、上手く伝える言葉の表現が見つからないのだと思います。

日本酒も多様化してきています。
同じように一括りで案内できなくなっています。
そこで、最近流行の日本酒と昔からの価値観を持つ日本酒の違いを伝える為に、この「食中酒」いう言葉のイメージを借りたのではないでしょうか。


尚、
このコラムの意味からは外れますが、ここで少しワインについて補足します。

ワインの安価なもの。
でも、とっても気軽に楽しめるもの。
これを自動車に例えると、要するに軽自動車じゃないでしょうか。

軽自動車は、その軽自動車の中での評判の良さを競います。
そして、中級モデル。
その上に、レクサスとかの高級車。
カーマニアに人気のスカイラインのようなスポーツカー。

ワインも同じように捉えることが出来そうです。
すべてのワインを同じ基準で評価しようとするから、安価なワインを評価出来ないのだと思います。
安価で美味しいワイン。
この評価と高級ワインの評価を一緒に比べるなんて、そりゃ、無茶ですよ。

目的が違います。

なぜ、こんなことを書いているかといいますと、ワインはそのベースとなる商品の捉え方が分かりやすいのです。

しかし日本酒は、その分類や商品の違いを伝えるのが少々ややこしくなっています。
まあこれも日本酒の持つ、日本酒たる所以かもしれません。

これも日本酒の持つロマン。
そう、思いたいと思います。

2012.02


                                      
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