美味しさのかたち
 酒屋慶風
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【日本酒の個性とは】

 よくワインと比べると個性に乏しいとかバラエティさに欠ける、つまり味わいに幅がないとか言われる日本酒ですが、いえいえ決してそんなことは無いと思います。

ワイン等の他の酒類と比較して論ずる場合、やはり視点が重要になります。
単純に表面的な味わいだけを比較しても本質的な部分は見えてこないのではないでしょうか。

曰く、日本酒はお米だけ。
葡萄で言えばある一つの品種のバリエーションがあるのと同じなのでは。
ワインは赤と白そしてロゼがあって、重いタイプから軽いタイプ、甘口の白ワインから辛口の白ワイン、そして世界各国の味の違いなど、とてもいっぱいあって楽しみの幅ってすごいんです。

その通りではありますが、いくらバラエティ豊富でも美味しいワインでなければ意味が無いし、どの酒であっても美味しさの本質は変わらないと思います。

  日本酒の個性の話の冒頭にワインの話を持って来た訳ですが、どちらが優れている等と言うつもりではなく、品質が優れたお酒で美味しくその味わいを楽しむのにお酒の種類の優劣を言っても意味がありません。
違う飲み物なのですから。
つまり日本酒とワインというカテゴリーは別なのですが、どちらも美味しいお酒を醸してこそ、それが本来の姿であることは同じです。つまり原理・原則は同じはずなのです。

  ワインに比べると個性に乏しいと思われがちな日本酒ですが、地域特性とお米の性質、そして造り手の感性などが絡み合って、酒屋万流と呼ばれるように様々な味わいが存在します。
しかしながら、ワインを見習ってワインのようなキャラクターを目指そうとした日本酒を見ることがあります。
はっきり言って残念です。
やはり、日本酒って何。
そこを本質的に追求していただきたいと思います。

良い酒米が取れるのも優れた原料葡萄が栽培されるのも同じ理屈です。
ただ条件が違うだけです。
水、光(日照)、温度、湿度、昼夜の寒暖の差、風、そしてもちろん土壌。
理屈は同じです。ただ、田圃か葡萄畑かの違いと米と葡萄の違い、そしてそれぞれに合った条件が違うだけだと思います。
それならば、日本酒はより日本酒の本質を探究して頂いて、本当の個性を表現して欲しいと思います。

この個性と言う言葉、都合のよいときに都合よく使われたりします。
本当のところ中々意味がよく分からない言葉だったりします。
なので少し視点を変えてみたいと思います。

  実は私は、日本酒は日本の心が醸す芸術品だと思っています。
「いえいえ、多くの方に喜んで頂き且つ楽しんで頂ければ十分です。芸術品だなんてそんな大それたこと思ってませんよ。」と多くの蔵元さんは謙虚にそうおっしゃいます。
でも、並みの味わいなら誰も喜んで飲みません。
「この酒、美味しいなあ〜。」とか「これ、旨いわ。」と感じるから酒を飲む訳で、そうでなければ旨い酒を求めたりしません。
これって、優れた絵画をみて素晴らしいと感動するのと同じなのではないかと思います。
それぞれの方々が自らの感性に素直に従った結果ではないのかと。
つまり、多くの人が共有できる芸術作品を多くの方が素敵だと思って愛でるのと同じです。
こういった感じで多くの人が美味しいと言って飲んでこそ、そのお酒は活かされたことになるのではないでしょうか。

  個性的という言葉がピッタリ当てはまる芸術家と言えば、大阪万博の「太陽の塔」でおなじみの岡本太郎さんが頭に浮かびます。
彼は、こう言っています。「芸術は一部の金持ちだけのものじゃない。大衆に愛されてこそ本物なんだ。」とね。
そしてこうもおっしゃっています。「ぶつかり合うことこそが調和なんだ。」

彼の言葉は、あの有名になった「芸術はバクハツだ。」だけではないのです。
逆説的な事を言いながら、彼の「太陽の塔」は多くの人に親しまれました。
正に個性が大衆に受け入れられました。

  日本酒に話を戻しますが、味わいの幅が狭いと思われがちな日本酒ですが、個性を表現するのに事欠く理由はありません。
むしろこれほどまでに多彩な味わいと広がりがあるのかと思えるお酒だと思います。
酒造りと言う名のキャンパスは真っ白です。
素晴らしい芸術作品を醸していただき、多くの人に愛されるお酒を世に出されることを願っております。
それでこそ日本酒本来の持ち味が発揮され、多くの人を魅了するのですから。

 尚、このコラムは「何か変わったもの、目立ったものを造ればいい、それが個性だ。」という発想が誤りではないだろうかとの思いから書いた文章です。


                                      
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